40.心が壊れる

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入院生活を振り返って辛かったことは何だろうかと考えた時、すぐに頭に浮かぶことがある。

骨髄移植を受けるために個室隔離になってから1ヶ月経った頃、私は下痢と吐き気とぎっくり腰のトリプルパンチで精神的にかなり参っていた。

それからだろうか。睡眠時間が短くなっていき、眠りについても1時間くらいで目が覚めるようなことが増えていった。

最初はあれ?どうしたんだろう?と不思議に思ったが、何故かそこから次第に無気力になり、感情がなくなっていった。

家族とも楽しく話せなくなり、笑顔が消えた。

入院生活も7ヶ月を過ぎ、病院の静かで無機質な空間にずっとこもっていることが耐えられず、気が狂いそうになってきた。このままでは発狂してしまうのも時間の問題だと思うようになり、治療を中断して家に帰るにはどうすればいいかを本気で考えた。まだ毎日のように輸血をしていて到底病院を出られる状態じゃないのに、である笑。どうかしている。でもそんなことを真剣に考えるほどに心が追い詰められていた。

何故か体がブルブル震え出すようになり、もう精神的に限界に来ていると思った時「先生、この空間にいるのがもう限界です。」と心の内を正直に先生に打ち明けた。

先生はうん、うんと私の話を聞いてくださり「そうだったんですか。辛さに気付くことが出来なくてごめんなさいね。ステロイドの量が増えることで精神的に落ち込んだり、無気力になったりすることは珍しいことじゃないんですよ。」

主治医のS先生はTHE仕事ができる女医!という感じの雰囲気だが、一方で患者の気持ちに寄り添うことのできる稀有な方だと思う。

私はここで初めて「ステロイド精神病」というものを知った。前処置から骨髄移植後、拒絶反応などを抑えるためにかなりの量のステロイドを使った。それによって不眠症や鬱状態になる場合があるそうだ。

拒絶反応など出てはいるものの、私はまだ軽度の方だと思う。他の治療仲間から聞く話はそれはそれは壮絶な体験ばかりだった。まだ自分は恵まれた状況にもかかわらず、ただ病院にいるのが辛いというそんなワガママな理由でこんなにも精神的に追い詰められている…なんて自分は甘くダメな人間なんだろうかと自分を責めていた。

しかしこれは薬の副作用による症状だと知り、ホッとした。

後日、他の患者さんとの会話の中で、大量ステロイドで同じようにステロイド精神病になっている人が多くいるという話を聞いた。「造血幹細胞移植を受ける人の多くが通る道なんだ」と知って、恥ずかしいことでも責めることでもなかったんだなぁ…と。

そこから精神科の先生が来てくださり、精神安定剤や睡眠導入剤を飲むようになったけれど、やはり症状は良くなることはなく無気力の抜け殻のような状態だった。嬉しいとか楽しいとかが感じられなくなり「辛い」「消えたい」「苦しい」という感情しかなくなった。

振り返ると驚きなのだが本当に何をするにも億劫で、毎食後に薬を飲むという簡単な行為さえも無気力のため「よし!薬を飲むぞ!」と力を振り絞らねばならず、行動に移すまで30分くらいかかった。(薬を飲むのは苦手ではない)

気分を紛らわすために暇つぶしの方法を色々考えたが、テレビもゲームも漫画もネットもどうしてもする気になれず、結局時計の秒針が1秒1秒進むのをただ眺めていた。

鬱病になるってこんなにも辛いことなのか…当事者の辛さが少し理解できるようになった経験だった。

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